小さなバッグからクッション、タペストリー、額絵、いすやラグまで、ニードルポイントには暮らしを彩る実用的で優雅な装飾品がたくさんあります。親から子へ、子から孫へと作った人の心を思って大切に受け継いでいきます。
ここでは、ニードルポイントが彩る、暮らしのなかの作品をいくつかご紹介します。
ナーシングチェアとは、ヴィクトリア時代の授乳用のいすのこと。
ロンドンのアンティークショップで購入した際には、座面と背にニードルポイントで刺されたオールドローズとブドウの図案がかすかに残っていました。それをキャンバスに描き写して刺しゅうしたもので、イギリスで刺した私の3作目の作品。
刺し上がったものを夫がいすに張って日本に持ち帰り、現在も我が家で愛用している思い出深い作品です。
ロンドンのテート・ギャラリー所蔵『Sympathy』(Briton Rivirer,R.A.)をモチーフに刺したもの。同情という意味のタイトルですが、一人残された娘に寄り添うラブラドールの切ないほどの思いやりが感じられます。
ダブルキャンバスを使い、顔の表情は細かいメッシュで、ほかは粗く刺しました。
ロンドンで暮らし始めてすぐ、兄弟のいない息子の遊び相手にと犬を飼いました。コリーを選んだのは、賢くて従順、愛情の深い犬だという印象があったからです。息子の心の慰めとなり、日本へも連れて帰国しました。
帰国後にまた訪れたロンドンの画廊で、女の子と遊ぶコリーのポストカードを見つけました。標題は「playmate」(遊び友達)とついていました。
いつか息子へのプレゼントにできたらと思い、図案を起こして、心を込めて楽しみながら仕上げた作品です。
今から30年ほど前に、パリの手芸店のウィンドウに美しい貴婦人のポートレイトが飾られているのを見つけました。それはニードルポイントの刺繍でした。
下絵を買い、写真を撮って帰国しましたが、細部が不鮮明で一部あいまいに刺してしまったところがあります。
タイミング良くその後、夫がパリに転勤した為に、仕上げた刺繍をパリへ持って行き額装にした思い出多い作品です。
王立刺繍学校にヴィクトリア女王の椅子が展示されていました。
刺繍のデザインはいうまでもなく、その形は低い円形の座面周囲ぐるりと背中部分にも長い美しいフリンジが揺れるほどに使われた、素晴らしいエレガントな椅子でした。
女王と同じ椅子を作ることができるという感動で、初めの一脚はクラシックに、ニ脚目は20年後に新しい色に変えて作成しました。
ヨーロッパではよく見かける椅子ですが、イギリス・ヴィクトリア時代のアンティークのセッティです。大きな張り地が古くなったので、刺繍で張り替えたいとデザインを考えていました。
パリで親しくなっていた女主人の刺繍店で古い大きな戸棚にあった、たくさんの図案の中からモティーフを決めました。
椅子の背と座面にそれぞれ合わせて下絵を描き、色を決め、テントステッチは濃淡2色で小さなダイヤ形を作りました。
ナーシングチェア
タペストリー
Playmate 遊び友達
ポートレイト
ヴィクトリア女王のデザイン椅子
花とリボンのセッティ
繊細で華やかなニードルポイントの世界を、
たくさんの美しい写真とともにご紹介した本です。
ウィリアム・モリスの野の花、中世のタペストリー、庭の草花、森の小さな生き物など、イギリスの伝統図柄を現代風にアレンジした作品や、基本図柄35点、応用図柄25点の方眼図、図案を掲載しています。(定価2,900円+tax)